WRITE THE LIGHT

溟犬一六のWEB小説

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教えてあげましょう

オーソドックスなショートショート

読了目安:5分


 人通りの多い駅前にて、金髪の中年男がきょろきょろと周囲を見回している。手にさげたボストンバッグはぱんぱんに膨れており、かなり重たそうだ。男は何か言いたげに、道行く人々の背中に腕を伸ばそうとして、下ろす……そんな動作を繰り返していた。
 人々は男の様子を見ても知らぬふりをして通り過ぎていく。
 しばらくすると、OL風の女性が男に声を掛けた。たどたどしい英語だ。
『あの、何か、お困りでしょうか』
 男はぱっと目を輝かせた。男は日本語で返した。
「おお、すいまセーン。日本語で大丈夫デース。助かりマース。あなたのような優しいカタがいてくれてうれしいデース」
 男の日本語に安心した様子で、女は胸を張った。
「何でも聞いてください。私が教えてあげましょう!」
 男は女の声を聞くと嫌らしい笑みを浮かべ、持っていたバッグの中をあさった。
「アナタはチャンカック=パメルドラを知っていマースか?」
「パメル……何ですか?」
 女は眉をひそめた。
「知らナイのデスね?」
 男はバッグから分厚い本を取り出すと、それを女に差し出した。
 表紙には三つ首の天女が描かれており、タイトルは『チャンカック=パメルドラ〜我ら選ばれし者の絶対神〜』。
「ワタシが教えてあげマショウ!」
 男が早口に入会金やら何やらの解説を始めようとした瞬間だった。
 女の姿が一瞬にしてかき消えた。
 男は中空を見つめる。そこには、三つ首の天女が浮かび微笑んでいた。三つの表情には先程の女の面影があった。
『私の姿が見えますね』
「そ、そんなバカな。パメルドラなんて、いるはず……」
『本当に残念です。親切心を利用した布教活動など、人間のすることではありません』
 男は呻き、膝立ちの格好になり、喉を両手で押さえた。嗚咽しながら、口からは赤い泡が吹き出した。顔面に、そして喉を押さえる手に、破裂せんばかりに血管が浮かび上がった。
 周囲の通行人はその様子に気付き、パニックになった。
『悪しき心を持つ者がどんな醜い最後をむかえるか――教えてあげましょう』

 

 

(おわり)

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